山は、訪れる季節によって同じ山でも全く違う姿をわたしたちに見せてくれます。今日はわたしが大好きなくじゅうの四季をご紹介しようと思います。
春のくじゅうは、花でいっぱいです。特に山一面をピンクに染めるミヤマキリシマはくじゅうの代名詞とも言えるのではないでしょうか。しかし、くじゅうではミヤマキリシマだけでなく、他にも様々な植物を見つけることができます。
ふわふわっと淡いピンクの大きな花を咲かせるシャクナゲ。岩場にひっそりと可憐に咲くコイワカガミ、別名ユウレイダケとも呼ばれるちょっと薄気味悪いギンリョウソウ。枯草の間から力強く生えている美しい青をしたリンドウ、などなど。どの植物も個性的で可愛らしいですね。
花によって開花の時期が少しずつ違うので、短期間に同じ山に登ったとしてもその度に違う種類の花に出会うことができます。花によっては「1週間前(後)に来れたらちょうどピークだったかな…」ということもしょっしゅうありますし、「お!先週末登った時にはこの花咲いてなかったな~」ということも。当たり前のことかもしれませんが、山には登った数が多い方がいい景色と出会える確率が上がります。たくさん登って、その時の「旬の花・旬の景色」を探しましょう。
また、春は新緑が鮮やかな季節でもあります。森の中も明るく、歩いていてとても気持ちが良いです。
人間が気持ちいいと感じていれば、動物も同じように感じているのでしょうか。春の山ではたまに、温かくなって巣から出てきたヘビに出くわします。ヘビ嫌いのわたしが思わず「ギャーーーー!」と叫ぶと、ヘビの方もそれにびっくりしてシュルシュルっとどこかへ逃げていってしまいます。転がっている木の棒と間違って踏んづけてしまわないように、皆さんもどうか春の山では足元に気を付けてくださいね。
夏のくじゅうの魅力は、山の深い緑。癒しとエネルギーを与えてくれます。
市街地に比べて標高が高い(中岳標高1,791m)とはいえ、夏の山は日中、灼熱地獄と化します。特に森の中ではなく、木陰のない開けたコースを歩くと、どれだけ水を持っていても足りないくらいとにかく暑いんです。
そこでおすすめなのが、「朝駆け」。まだ暗いうちに登山口を出発して、頂上で日の出を迎えます。
朝の山は緑が更に深く見え、太陽の光が山の表情を刻々と変えていきます。昼間歩いている時に見る景色とは一味も二味も違います。
朝駆けに挑戦して、夏のくじゅうを満喫してはいかがでしょうか?
くじゅうの秋といえば、なんと言っても紅葉です。山が鮮やかな赤や黄色に染まります。春のミヤマキリシマと並んで、くじゅうの二大絶景の一つです。車でくじゅうまで行こうと思う人は、のんびり出発していると混雑で車が駐められず、登山口まで何十分と歩く羽目になってしまいますのでご注意を。山の上はたくさんの人で賑わいます。
ススキと山の組み合わせはなんともさわやかで、季節の移ろいを感じさせます。風はカラッとしていて心地よく、空気が澄んでいるため周りの山もくっきりと見えます。空は高いです。
ちなみに、坊がつるにある法華院温泉山荘では、毎年11月頃に「初冠雪弦楽四重奏コンサート」が行われます。私が初めて法華院に泊まった日、何も知らずに訪れたのですが実はその日がたまたまコンサートの夜だったのです。山小屋に響く弦楽器の音と山小屋の温かい雰囲気にすっかり魅了され、わたしは法華院のリピーターになってしまいました。
「初冠雪」というコンサートのタイトルから分かるように、この頃のくじゅうは冬目前で、山小屋の外は気温がぐっと下がります。ですが、法華院はめずらしい「温泉に入れる山小屋」です。冷えた体を温泉で温め、美味しい山小屋ご飯を食べて、弦楽四重奏で癒される。とても贅沢な時間です。皆さんも是非予定を合わせて一度訪れてみてください。
冬になると、くじゅうにも雪が降ります。たくさん雪が降った後は春・夏・秋のくじゅうとは全く別の姿に変わります。雪山ってなんだか神秘的ですよね。人を寄せ付けない感じがあります。
登山道を囲む木々にはびっしりと樹氷がはり付き、真っ白なトンネルを作り出します。雪が音を吸い込むのか、周りはしんとしていました。
御池は冬の間水面が凍るため、池の上を横切って歩けるようになります。大きな天然のスケートリンクです。中にはソリを持ってきて、池の上で遊ぶ人たちも見かけます。大人でもワクワクしちゃいますよね。ただし、春が近づき気温が高くなると氷が池の真ん中の方から薄くなってきますから、くれぐれも氷を割って落ちてしまわないように、足元を確かめながら慎重に歩きましょう。
くじゅうの四季、いかがでしたか?季節によって色んな山の顔があることに驚きますよね。年によって季節の進み具合が少しずつ違うため、同じ時期同じ山に登っても、またそれまでとは違う新たな発見があります。
この写真は数年前の3月下旬に撮影したものです。黄色いマンサクの花の上に季節外れの雪が積もっていました。くじゅうの冬と春を同時に感じた瞬間です。皆さんも、近くの山で、その山の四季を見つけてみませんか?