「人はなぜ山に登るのか。-そこに山があるからだ。」
よくこんなフレーズを耳にしますが、あなたが山に登る理由、山に興味を持った理由ってなんですか?
山登りをするようになって、色々な山で色々な方と出会っていくと、人それぞれオリジナルの登山スタイルがあることに気づきます。山登りの何に重点を置くかが人によって全く違うのです。
或る人は、或る時期・或る時間のほんの一瞬しか見られないような絶景を、一枚の写真に納めるのが目的です。特定のポイントまで登ってそこに留まり、その瞬間を待ちます。今日は自分が思い描いた写真は撮れないかもしれません。そうしたら、また次の機会を狙って明日も同じ山の同じ場所へ、そして今度は次の絶景ポイントを目指しまた別の山へ登っていきます。
また或る人は、体力に自信がないので高い山には登れません。その代わり、ちょうどいいくらいの距離にある見晴らしの良い休憩ポイントを自分の目的地に設定します。ザックの中には野点(のだて)セット。目的地に着いたら、真っ赤な敷物を敷き、抹茶を点てて仲間に振る舞います。山の空気と一緒にそれを味わうのです。その人にとって山の頂上は目的地ではありません。
またまた或る人は、70代になってからの登山チャレンジ。山登りカルチャースクールで出会った30代・40代・50代の男女3人と意気投合し、4人で一緒に日本アルプスや海外の山々にひたすら挑みます。自分よりもうんと若い人たちと笑い合いながら楽しく山に登る日々。今からでも遅くない!と九州百名山の制覇を目指して、ものすごい勢いで山に登っています。今では登山が生きがいだそうです。
同じ山登りでも、人それぞれ色んな目的があって面白いと思いませんか?
「では、あなたはなんで山に登るの?」といざ聞かれると、一言で答えるのは難しい…。実は私、山に登る行為そのものはあまり好きではありません。だって、きついんですもん。日焼けするのも、山小屋のむさ苦しいのもできれば避けたいところです。
それでは、なぜ山に登るのか。
あえて言うなら非日常の体験でしょうか。(ありきたりかもしれませんが。)
例えば、普通に生活していたらマイナス14度の吹雪の中で自分がどっちに向かっているのか分からなくなったり、手に汗握りながら崖に掛かった鉄ばしごを登るなんて状況は起こりません。あまりの周囲の静けさに耳がキーンと痛くなったり、日の出を見て涙が出るくらい感動したりすることもほとんどもないでしょう。山で食べるご飯はおにぎりでも、カップラーメンでも、山小屋のカレーでも特別美味しく感じますし、たまたま同じ時間・同じ場所に居合わせた人との会話も楽しいものです。そして何より、壮大な景色と動物や植物の生き生きとした姿は、実際に山に登った人しか見ることができません。日常では経験できないことが山にはたくさんあるのです。
山に登るだけが登山ではありません。山に登るうちに、きっと山をもっと好きになれる何かが見つかるはずです。人の登山の仕方にとらわれることなく、是非自分に合ったスタイルや登山の目的を見つけられてはいかがでしょうか。